interview 生きるをあそぶ人 vol.6 / きっとあと100年。寿命の限りつくりつづける

「interview生きるをあそぶ人」は、友安製作所のスローガン『生きるをあそぶ』をもとに、自分らしく人生を楽しんでいる人にお話を伺うインタビューシリーズです。

第6回は、金属をつかって様々な立体作品を手がける、彫刻家の高田さん。あなたにとって、自分らしい人生とは?

高田さんのprofile

兵庫県加古川市を拠点とする彫刻家。作家活動をはじめて19年。主に金属を素材とし、「人形ではなく、人間をつくりたい」という思いで、多くの作品を手がけている。

鉄のゴリラをつくったあの人

2025年春に完成した友安製作所のあたらしいオフィス。そのエントランスには、どっしりと佇む、大きなゴリラ像の姿があります。会社のシンボル的存在のこのゴリラ、実は友安製作所の工場で生まれる鉄の端材をつかって、アーティストさんが制作してくれたものなんです。その作者こそが、今回ご紹介する6人目の「生きるをあそぶ人」。兵庫県在住の彫刻家、高田治さんです。高田さんとの出会いは、毎年10月に大阪府広域の町工場を舞台に開催され、友安製作所が運営の一端を担っているオープンファクトリーイベント「FactorISM(ファクトリズム)」。その一環として数年前から取り組まれている、参加企業の廃材をつかったアート作品を制作するプログラム「LIVEISM(ライブイズム)」でのご縁でした。

友安製作所のエントランスに佇む高田さんの作品

「LIVEISMは“廃材をつかったアート”をつくる取り組みだけど、僕にとっては、“廃材”じゃない。市場に出回っている材料とは全く違う、これまでつかったことない素材と出会えるのが面白そうだと思って参加しました」という高田さん。純粋に材料として向き合い、「どう廃材にみせないか」をテーマに作品を手がけました。

高田さんが彫刻と出会ったのは、高校卒業後に進んだ芸術大学。いつもノートに落書きをしていた姿を見て担任の先生がすすめてくれたのがきっかけでしたが、「絵は上手く描けない」という自身の思いもあり、興味をもったのが立体作品でした。「小さい頃からヒーローとかのフィギュアが好きで。そういうものへの憧れが、彫刻への興味につながってるんじゃないかな」。そして在学中、鉄をつかった制作に触れたことで、自身のスタイルが固まっていきました。

高田さんは鉄などの金属を溶接して組み合わせたり、ハンマーで強く叩いて形を変えたりすることで、作品をつくります。植物や果実をモチーフにした小さな彫刻もありますが、多く手がけているのは、人の背丈を超えるロボットや人間の姿。作品をつくりはじめてからの19年間、未だ納得できていないため、継続的に主題としてきました。「動物を手がけることもありますが、気づいたら人間みたいになってしまうんですよ」と高田さん。友安製作所の端材をつかった作品も、「ゴリラ」という当社からのお題を受けて出来上がった「ゴリラ人間」でした。

結局ひとに関わっている

高田さんは、作品制作のかたわら、14年間中学校の教壇に立っています。担当科目はもちろん美術。軽い気持ちではじめた仕事だったそうですが、今ではライフワークのひとつです。たった3年間でたくさんの変化とともに成長していく生徒たちとの関わりは、高田さんにとって、とてもおもしろく、大切な時間になっています。授業以外にも、悩める生徒から相談を受けたり、文化祭では趣味の音楽を一緒に楽しんだりと、さまざまなエピソードを教えてくれました。ご本人曰くシャイな性格で、あまり口数の多くない高田さんですが、インタビューのなかでも、ご自身のペースで発される短い言葉のひとつひとつが、高田さんの心をしっかり写していると感じられるのが印象的でした。そんな高田さんだからこそ、多感な10代たちからの信頼もあついのかもしれません。そして最近は、生徒との関わり方で学んだことが作家活動に活きていると感じているそうです。

大学時代は介護施設でのバイトをしており、アーティストになっていなかったら、福祉の道を選んでいたかもしれないという高田さん。「ひとに関わる仕事をして、ひとのかたちをしたものをつくる、結局人間が好きなのかもね」と少し照れくさそうに教えてくれました。

生徒の前で演奏を披露する高田さん

あと100年、つくりつづける

「彫刻以外、自分にはなにもない。すべてを犠牲にしてやってきた」という高田さんですが、数年前から「新しい挑戦をすることにもポジティブになった」という変化があったといいます。

その大きな表れが、3年前にはじめたギターの弾き語りです。昔から歌うことが好きだったそうですが、人前でうたってみようと決意し、ギターを習得。「大勢の前で話すのが苦手」という弱点を克服しようと、地元駅前のステージで定期的にライブをするようにもなりました。授業を担当する生徒たちが応援に来てくれたり、道ゆくひとが立ち止まったり、多い時は100人ほどの前で歌うこともあるとか。実際に以前より人前に立つことが怖くなくなったといいます。

「あと100年しかない」。高田さんはお話のなかで何度かそうおっしゃいました。「140歳くらいまで生きられると思ってるから、寿命の限りつくりつづけて、納得のいく作品をつくりたい」。それが高田さんのスタンスです。そして教師や弾き語りなど、さまざまな経験をすることも、そのための大切な要素なのだといいます。「いろんな経験をするからこそ、彫刻に生きてくる。だから最近はいろいろやってみようと思えるようになってきた」。
制作の面では長年手がけてきた金属だけでなく、そこに異なる素材を組み合わせることに興味をもっています。最近では「LIVEISM」をきっかけに、万博に出展するものづくり企業の端材をつかった作品制作に取り組んだり、はじめて地元を離れ、アーティスト・イン・レジデンスに参加するなど、挑戦をつづけている高田さん。あと100年、彫刻家としてどう生きるのか向き合っています。

ゴリラ人間の制作風景

自分のペースで、粛々と。頭の中にあるものを形にする

アーティストにとって作品は、いちばん「自分らしさ」を示すもの。最近は、作品をみた人から「これは高田さんの作品だ」と思ってもらえることも増え、自分の作品に満足はしていないものの、方向性が定まってきたと感じているといいます。もし生涯の作品をまとめた作品集をつくるとしたら、近年手がけた作品からが見せ場なんだとか。

「若くして売れている作家も多いとおもうけど、僕はここまでかかって自分が見えてきた。きっとすぐに調子にのってしまうから、自分は若くして売れなくて良かったと思ってますよ」という高田さん。これからも大それたことは思い描かず、頭の中にあるものを粛々と、ひとつひとつ形にしていきたいと考えています。そのなかで近年のうちにと見据えている目標は、海外での作品の発表です。

誰にもペースを乱されることなく、規則正しく。そうやってその時々の自分と向き合いながら、高田さんの100年の営みはつづきます。そんな高田さんの作家人生のなかで、友安製作所もご一緒できたことを改めてうれしくおもいます。

高田さんの作品は9/16〜9/22の間、大阪関西万博のヘルスケアパビリオン・八尾市リボーンチャレンジのブース「とにかく触れる博」に展示されます。期間中万博会場にお越しの方はぜひお立ち寄りください。