モノづくりにかける「 Craftsman= つくり手」の想い。一つ一つにその想いを乗せたハンドメイド製品と、つくり手をピックアップします。 第一回目は、ファンの多い『真鍮ノブ・取っ手』のつくり手であるDon。
「はじめは、モノづくりを仕事にするのは好きじゃなかった」。
意外な答えを返してきたのは、モノづくりの道を歩んで50年のDon。友安製作所の真鍮ノブや取っ手は、すべてDonの手によって生み出されています。全19種類。その種類の違いだけでなく、一つ一つの製品にハンドメイドならではの「表情」が。
「完璧なモノよりも、ちょっとどこかに歪みがあったり、クセがある方が馴染みやすくてしっくりくるでしょ?でも、それも全部、職人の計算」。そう言いながら、一つ一つ丁寧に削り上げ、“あえて均一にならないように”計算し尽くす。使い古された言葉だけど、機械だけでは実現できない、これぞ職人の技。
真鍮は銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金。亜鉛の含有量が多いほど、金色に近く硬くなっていきます。
「真鍮は比較的加工がしやすい素材。アンティークの味わいも出しやすいよね」。金色に近い色味はインテリアにも合わせやすく、時間が経つとさらに味が出てきます。
「鉄は錆が出るけど、真鍮は光沢が落ちて味になる。温かみがあるっていうのかな。日本でも昔から使われているクラシックな魅力がある素材」。
工程一つ一つがモノづくりの醍醐味
材料となるのは、2メートルの円柱・角柱状の真鍮素材。製品の形によって、先にカットもしくは削りを入れます。
ベルトコンベアを縦にしたような研磨工具で表面を削っていきます。 Donが機械に素材を当てるたびに、「シュイーン、シュイーン」と金属を削る独特の研磨音が工場に鳴り響きます。
ネジ穴をあけるのは、削った後。最後はそのネジ穴に治具をはめて、細かな傷がなくなるまで何度も磨きます。削るのは機械だけど、見極めるのは職人の目と指先。
冒頭、Donが語った「好きじゃなかった」という言葉の真意。「仕事と考えるんじゃなくて、趣味の延長みたいに考えて、モノづくりが好きになった。食べるためだけの仕事にはしたくないからね」。
その言葉通り、プライベートでも多くの作品をつくっているというDon。最近夢中になっているのがステンドグラス。四季の風景や生き物をモチーフに、様々な作品を手掛けています。
他にもブラインドの留め具や、海外のお皿を飾る留め具など、「日常の中でも、こんなものがほしいと思ったら自分でつくってしまう」。Donにとってモノづくりは、生活の一部であり、人生の一部。
この真鍮製品の一つ一つにも、そんなDonの人生の一部がこもっています。手に取ってくれた皆さんの人生が、真鍮のように味のある輝きを増していきますように。
【Craftsman Donのプロフィール】
友安製作所に入社して50年以上。実は先代の社長でもあります。木ネジやヒートンから始まり、カーテンフックなど生活にまつわる様々なモノづくりに携わってきました。小学校から高校まで油絵にも没頭し、今でも1930年代頃の洋画に惹かれるとか。まだまだ現役の Craftsman です。
【ライターJackyの一言】
磨き上がった製品の一部を記念に頂きました。磨き立てを掌に乗せてもらうと、驚くほどの熱!(もちろん職人さんはきちんと手袋をつけています)。愛用のノートの上で、文鎮みたいに使ってます。