【気になる八尾のあの工場vol.5】谷元フスマ工飾さん

こんにちは!友安製作所、新米広報のCyan(シアン)です。
今回は、連載「気になる八尾のあの企業」のvol.5!
だんだん連載らしい数字になってきました!

友安製作所が拠点とする大阪府八尾市の、ものづくり企業の魅力を発信していくこの連載。第5回目となる今回は、谷元フスマ工飾さんへお邪魔しました!

3代目社長の谷元亨さんにお話を伺うことができました。

谷元フスマ工飾株式会社
「間仕切りによる空間価値創造」と掲げ、フスマをはじめとする様々な建具を販売。現代の住宅にマッチするおしゃれで居心地の良い和室を提案されています。
【谷元フスマ工飾さんHP】https://t-f-kosyoku.com/

時代に寄り添うフスマ屋さん

77年の歴史をもつ谷元フスマ工飾さん。谷元社長は「その時々で求められるものをつくってきた」と振り返ります。

現在では、古びたフスマを取り払い、おしゃれな和室空間に変えることができるような、デザイン性の高いフスマや建具の販売に力を入れておられます。

創業は1946年、創業者は谷元社長のお祖父様です。

戦後すぐの八尾のまちで、住居を兼ねた小さなお店を持ち、フスマの製造と販売をスタートされました。

転機となったのは、1960年代に迎えた高度経済成長。住宅の増加に伴ってフスマの需要が伸び、会社も大きくなっていきました。

当時、生産数を増やすために新設した工場は、まちのフスマ屋さんにしては大きなものだったので、近所では驚きの声が上がったといいます。

フスマ以外の建具を取り扱いはじめたのは、2代目として会社を引き継いだ谷元社長のお父様でした。

当時はまだまだ和室の住宅が多い時代でしたが、少しずつ洋室が増えていく中で「これからは洋室の時代になるだろう」と考え、ドアの取り扱いをスタート。

その頃から、フスマだけではない、建具屋としての役割を担うようになりました。

そして3代目である谷元社長が目をつけたのが、和室のリフォームです。 いつからか「古いもの」というイメージがついてしまった和室を、現代の住宅にも馴染むオシャレな空間にリフォームできるような建具を考案し、インターネットでの販売を行なっています。

手軽に、おしゃれな和の空間を

3世代に渡り、その時代の住空間に求められる建具を担ってきた谷元フスマ工飾さん。つくるものが変わっても、そこには「空間の居心地を良くするもの」という共通のテーマがあるといいます。

2008年に会社を引き継いだ谷元社長が耳にしたのは、「古い和室を洋室風に変えたい」という、現代ならではの声でした。

そこで考案されたのが、フスマの枠に簡単に取り付けることができる、洋風の引き戸や間仕切り。もともとあるフスマの枠を活かすことで大掛かりな工事が必要なく、DIYで簡単に取り付けることができます。

賃貸住宅のオーナーさんの「洋室でないと借り手がつかない」という悩みを聞いたことがきっかけで、低コストでリフォームができるように「枠を活かす」というアイディアを思いついたそうです。

そして、同じように「自宅の和室を洋室風にできたら」と考えている人は多いのではないかと考え、インターネットでの販売をスタート。

リフォーム業界では地域に根ざした会社が多い中、インターネットとDIYの要素を掛け合わせることで、同じ悩みを持つ全国のお客様にこの建具を届けようと考えたのでした。

一方で谷元フスマ工飾さんが提案してきたのは、和室を洋室風に変えてしまうことだけではありません。

「みすぼらしい」「古いもの」というイメージがついてしまいがちな和室を、おしゃれな和室に変えるためのアイテムもたくさん展開されています。

例えば、可愛い柄がついてカラフルな引き手(華引手)や、襖紙。

谷元フスマさんの華引手

華引手は、洋室がメインとなる住宅では無地のフスマが好まれるため、そこに良いアクセントになるようにと考えられたそうです。
柄つきの襖紙は、そこにあるだけで空間をパッと明るくするようなフスマに仕立てることができます。

谷元フスマ工飾さんの歴史にもあるように、かつてたくさんのフスマが必要とされ、量産された時代がありました。そのため品質やデザインにこだわらない低価格のフスマが出回り、多くの家の和室に使用されていました。

谷元社長は、その頃のフスマが時を経て「ダサい和室」のイメージをつくってしまったのではないかと考え、和室をこだわりの空間にできるようなアイテムをつくられています。

「フスマ」と入った社名を守る

現在、谷元フスマ工飾さんで行っているフスマの製造や張り替えの仕事は、売り上げ全体の3割程度だといいます。

そんな今でも「谷元フスマ工飾」という社名を掲げているのは、谷元社長の思い入れがあるからこそ。

実はこれまでに何度か、「建具屋ということが伝わりやすい社名に変更すべきではないか」という議論もあったそうです。

しかし、谷元社長が3代目社長に就任された際、「うちはフスマで創業したのだから、その名前を大切にしよう」と、自分の代のうちは社名を変えないことを決めたといいます。

社名を大切にすることはもちろん、フスマの仕事も続けていけるように、毎年高卒採用を行い、若い職人さんを育てておられます。

そんな谷元フスマ工飾さんで、創業当時から続く大切な仕事のひとつにフスマの張り替えがあります。

「フスマは張り替えてなんぼ」とおっしゃる谷元社長。実はフスマそのものが、張り替えを前提とした構造になっているそうです。

糊を全面に塗る壁紙とは違い、フスマはふちだけに糊をつけて紙をピンと引っ張っています。そのため、汚れたり、傷んだりしても張り替えを行い、大切に使い続けることができます。

近年はSDGsの考え方が一般的になっていますが、フスマはずっと昔から、私たちの身近にあるサスティナブルなアイテムだったのですね!

張り替えのために預かっている破れたフスマ

時代とともに和室が減っているのは事実ですが、谷元社長は「これからは、あえてつくる和室になる」と前向きな見方もされています。

かつては、居間も寝室も子供部屋も、全ての部屋が畳とフスマのある和室でしたが、現代では家に和室を設けるとしても一部屋程度が一般的。
和室があることが当たり前ではないからこそ、「好きなデザインにしよう」というこだわりが生まれるのではないかと谷元社長はおっしゃいます。

そんな時に、「高価な素材を使わなくても、おしゃれな和室をつくれるように」というのが谷元フスマ工飾さんの想いです。

存在がユニーク?

かつてはどの商店街にもフスマ屋さんと畳屋さんがあるほど身近な商店だったそうですが、最近は「近所にフスマ屋さんがある」という方も少ないのではないでしょうか。

谷元社長も、時々「フスマ屋さんに初めて会いました!」と驚かれることがあるそうです。
「企業のユニークなポイントは?」というこの連載の定番質問がありますが、谷元フスマ工飾さんは、存在そのものがユニークなようです。

もちろん、フスマの枠を活かす洋風の建具や、現代のフスマを彩る華引手のアイデアもユニークでしたね!

華引手が完成し、初めてインテリアの展示会に出展した際は、壁にずらりと華引手を並べたブースが目を惹き、たくさんの方が「可愛い!これはなんですか?」と見に来られたそうです。

「手軽に和室をおしゃれにできる」という他にない商品だからこそ、まずはこんなものがあると知ってもらうところから。

最近では、「waccara(ワッカラ)」というインテリアブランドを立ち上げ、おしゃれな襖の柄を利用したアートボードやマスキングテープなど、身近なアイテムを販売されています。

ブランド名「waccara(ワッカラ)」には「和から」と「輪っか」の2つの言葉が隠れています。このブランドには、おしゃれな襖紙や華引手の存在を知ってもらうことはもちろん、「和室のないお宅でも和の空気を感じることのできる暮らしをご提供したい」という想いが込められているそうです。

減っている和室を増やそうとまで大それたことは考えていないけれど、和の落ち着きを取り入れた素敵な空間を提案することで、「若い人たちの和室のイメージを変えていきたい」とおっしゃる谷元社長。

今では自社ブランドだけでなく、他社との協業も行いながら、その野望を叶えようとしているそうです。

“waccara”ブランドイメージ

次第に気づいたまちの魅力

今回も「八尾の魅力を伝えたいんです!」とインタビューに押しかけた私たち。谷元社長にも「八尾に対する想いや、好きなところは..?」とうかがってみました。
「難しい質問だなあ」とやや照れながらもお答えくださいました!

もともとは「ただ八尾に会社があるだけ」という感覚で、まちに対する思い入れは特になかったそうですが、八尾で会社を続けていく中で気持ちに変化があったといいます。

八尾市が中小企業に対して一生懸命になってサポートしてくれることを感じたり、八尾の企業の共創地点「みせるばやお」に参加したりするうちに、「良いまちだな」と実感したそうです。

「特に“みせるばやお”で、自分たちにない経験やノウハウを持った企業に出会うことが刺激になっているよ」とおしゃっていて、まちの企業が連帯しているのも、八尾の魅力だと改めて感じました。

谷元フスマ工飾さんは、八尾と周辺地域のまちこうばが一体となって開催するオープンファクトリーイベント「FactorISM」にも参加されています。

今年も11月に開催予定。谷元フスマ工飾さんや、周辺の企業さんを回ることで、八尾のまちこうばの一体感を感じることができるかもしれません!

この記事を読んでくださったみなさんも、ぜひご参加ください!

“みせるばやお”に集ったFactorISMの参加企業

おわりに

今回は70年以上に渡り、時代に合わせた建具を提案してきた谷元フスマ工飾さんの歩みをじっくりとうかがうことができました。

お話の中で、「その時代に求められることをした結果、今ではダサいと思われるような和室をつくってきたのも自分たちだと思うから、変えていきたい」という谷元社長のお言葉が印象的でした。

心が落ち着くような空間を「和から」届けたいという想いで、独自の商品開発を続ける谷元フスマ工飾さんは、日本の和室文化を守り、未来に繋ぐ存在です。

最後に、特別にお邪魔した谷元フスマ工飾さんの工場の様子をご紹介します。
フスマ職人による伝統の技をご覧ください!

こちらは、大ベテランのフスマ職人さん。
11月に開催する当社のお祭り「トモフェス」では、毎年フスマ張りの実演を担当してくださっています!

1日に100面のフスマを張ることが出来るそうです!

こちらは、襖紙に刷毛で水をふりかける様子。
綺麗な曲線を描きながら満遍なく飛んでいく水滴が、あっという間に紙全体を湿らせます。張る前に紙を湿らせておくことで、乾いた時にピンと張りが出て綺麗に仕上がるそうです。

フスマは張り替えを前提としたプロダクト。木でできたふちも釘で打ちつけておらず、取り外すことができます。ふちの内側に溝があり、それをフスマ本体にひっかけていると教えていただきました!

こちらは、実際にフスマのふちを取り付けている様子。
本来この作業を機械で行うことは難しく、この機械の完成には時間がかかったそうです。

新しいフスマをつくっている作業場には、Cyanと同世代の若い社員さんもいらっしゃいました。

今年の新入社員さんに少しだけお話を聞いてみると、「職人になりたい」という想いで、谷元フスマ工飾さんにやってきたのだとか。

職人を志す同世代の姿に、自分にはないかっこよさを感じました。
これから一緒に八尾のまちを盛り上げていけたら嬉しいです!

実は今回の取材は、私にとっても「初めてのフスマ屋さんとの出会い」でした。
谷元社長のお話から、「古くからあるものを、より良い形で今の生活に取り入れる」という姿勢を私も大切にしたいと感じました。

インテリアは、家という大切な空間で自分らしさを表現できるもの。その中の選択肢には、「おしゃれなフスマ」があることをどんどん伝えていきたいです。

谷元社長、今回はたくさんお話を聞かせていただきありがとうございました!