【まちづくり事例】「おもしろそう」で人が集まる。未来の尼崎をつくるオープンイノベーション拠点「ARKade」

社会が抱える課題や地域の願いを形にするために、人と人とのつながりや、新しい仕組みをデザインする「ソーシャルデザイン」。友安製作所では、そのソーシャルデザインを軸に、まちづくり事業に取り組んでいます。本シリーズでは、まちが良くなるためのサポートをご依頼いただいたお客様に、友安製作所を選んでくださった背景や、二人三脚で仕組みをデザインしていくまちづくりの内容などを、Ttimes編集部がじっくり伺います。

今回訪ねたのは、2026年4月に尼崎市に誕生した「オープンイノベーション拠点 ARKade(アーケード)。かつて信用金庫として親しまれていた場所が、地域の企業や起業家、クリエイターなどが集い、新しいアイデアを生み出す施設へと生まれ変わりました。

尼崎らしさを大切にしつつ、自分たちの力でさらにまちが発展していくための仕組みを、どのような形でつくり上げているのでしょうか。
今回は特別企画として、尼崎信用金庫の井上さん、尼崎市の杉下さんと、開設後にARKadeに通いながら事業者支援に寄り添う友安製作所(工務店事業課・まちづくり課役員)のWill(ウィル)、まちづくり課のKiki(キキ)の4名に、和やかな対談形式でお話を伺いました。

ARKadeの施工についての対談はこちらの記事をチェック

元・信用金庫が生まれ変わった場所で。未来をつくる「あまぬし」たち

「オープンイノベーション拠点 ARKade(アーケード)」は、2026年4月に開設しました。お仕事のワンストップの無料相談から、事業の共創やイノベーションを生み出す交流会、ワークショップなどのイベント・プログラム、コワーキングスペースやミーティングルームまでが一つになった、わくわくする複合施設です。

ARKadeの取り組みの中でもひときわ印象的なのが、尼崎の未来をともに創るための活動「あまぬしプロジェクト」。参加する企業を「あまぬし」と呼ぶ独自の制度について、詳しく教えていただきました。

──ARKadeオープンのきっかけは、「ものづくりのまち」としての強みをさらに育てるため、組織外部の技術やアイデアを取り入れる「オープンイノベーション」に辿り着いたからだと伺いました。現在、この場所にはどんな方が集まっていますか?

杉下さん 地域の企業や起業家の方、クリエイターさんを中心に、本当にいろんな方が日々来てくださるんですよ。オープン初日のイベントには、「90名ほど来てくれたらいいな」と考えていたところ、なんと150名もの方が足を運んでくださいました。その後も、ふらっと立ち寄ってその場で会員登録してくださる方がたくさんいらっしゃいます。

企業などの支援を行う尼崎市・杉下さん
オープン日のオープニングセレモニーの様子

Will 近所のコンビニの店主も会員登録してくださいましたよね(笑)。何かオープンしたと耳にして来てみたところ、「おもしろそうなことをしているな」と感じていただけたみたいで。

Kiki その方は、ARKadeの理念に共感して、「地域貢献したい!」と言ってくださいました。すごく熱心に、尼崎を盛り上げようとしてくれています。

井上さん 日頃やり取りする信用金庫のお客様からも「ARKadeができたんですね!」「何をされているんですか?」と声をかけていただくことが増えました。広く認知されている実感があり、みなさんの期待値の高さを肌で感じています。

──ARKadeには、事業についての共創の場を積極的に繰り広げていく「あまぬしプロジェクト」がありますよね。その取り組みについても、詳しく教えてください。

Will 「あまぬしプロジェクト」は、単なるコワーキングスペースの会員制度や認定制度とは少し違うんです。
尼崎の未来を創るために市内の企業の方々が一つの場所に集まり、対話を重ねて、尼崎に眠る魅力や価値を見つめ直していく。その一連の活動に取り組む企業を、株主になぞらえて「あまぬし」と呼んでいます。

企業やクリエイターを支援する担当者の研修会も行うWill

杉下さん あまぬしの方々には月に一回、企業同士の対話と共創を目的とするワークショップにご参加いただき、尼崎の未来につながる新しい価値を生み出していくことを目指しています。

第一回あまぬし交流会にて。たくさんの方が参加してくれました

──この独自の制度が誕生した背景には、どのような想いがあったのでしょうか?

杉下さん かつて尼崎は公害のまちとして知られた時期がありましたが、実際に企業の現場を見ると、環境に深く配慮し、地域としっかり対話する覚悟を持って事業に取り組まれていました。また、市からイベントへの協力などをお願いすると、みなさん快く引き受けてくださいます。「こんなまちに貢献してくれている企業の方々に、何か新しい価値を提供して恩返しがしたい」。そんな思いからスタートしたのが、「あまぬし」なんです。

井上さん 「投資」というワードが出たときに、「まるで株式のようだな」と思ったんです。通常、株主は事業の未来を信じて資金を投じますよね。でもこのプロジェクトでは、企業のみなさんが培ってきた「経験」や「知識」、そして「挑戦の物語」といった目に見えない資産を、対話の時間を通じて、地域に分けてくださるんです。

対話はすぐに目に見える結果を生むわけではありませんが、互いの経験を持ち寄って語り合うからこそ、次の挑戦の「種」が生まれます。だからこそ、ここに来る企業を、まだ形の見えない尼崎の未来に時間や経験を投資して一緒に地域をつくっていく「仲間」として考えています。

工務店事業とも対応いただいた、尼崎信用金庫・井上さん

Will 僕が市役所職員時代に立ち上げた共創のコミュニティ拠点「みせるばやお」でも、経営者のみなさんに時間を割いてまちづくりに関わってもらっています。民間と行政がつながる信頼関係のカタチを尼崎でも実践したいというお話から、このプロジェクトはスタートしました。「経営の時間をまちに投資してもらう」という覚悟に対して、ちゃんと還元するという精神が根底にありますね。

ARKade一階のスペース。作業スペースやミーティングルームがあります
ARKade二階スペース。大所帯のミーティングも対応できる広さがあります

「おもしろそう」というわくわくが、想定外の出会いを生む

取材日の数日前、あまぬしが一堂に集まって一回目の交流会が行われたそう。「産業が元気だからこそ、尼崎が元気」また「尼崎が元気だからこそ、産業が元気」という想いを持って開催されたこの日も、想定を上回る企業が参加し、濃密な時間が流れていたといいます。

尼崎の好きなところをそれぞれ挙げている様子

──参加されたみなさんの反応はいかがでしたか?

杉下さん 最初は5〜7社くらいで始まればいいかなと思っていましたが、ふたを開けてみれば20社近くの応募がありました。交流会にはものづくり企業だけでなく、サービス業や福祉、ITなど幅広い業界の方々が来てくださって。業界や業種が違うといろんな意見や考え方が生まれ、他の方への刺激になる環境がつくられたのでよかったです。

井上さん まだまだ知らない企業がたくさんあって、実は凄くおもしろいことをしていると分かるきっかけになりました。企業として成長しても尼崎から出ることなく、長くこの土地で展開しているところが多く、「尼崎のために」という視点で表現できる場ができてよかったと感じています。

Kiki 私も当日参加しましたが、「よくわからないけれど、おもしろそうだから来てみた」という方が多くいらっしゃいました。ARKadeで「何かが起こるかもしれない」という期待を持って集まってくださり、終了後には「初めての人と交流できた」「一緒に何かができそうな可能性が見えた」とポジティブな反応をいただき、大きな手応えを感じました。

ARKadeのイベントや交流会のプロジェクトをまとめるKiki

Will まちづくりは「楽しむこと」も大切です。だから、わくわくした気持ちで来ていただくのも大歓迎。ARKadeは「気軽に集まれる場所」にしていきたいですね。想定していた企業リストの「外れ値」となる方が現れたのは、僕もうれしいです。

今はまだ答えがなくてもいい。複雑なほうが、まちづくりはおもしろい

想定以上の多様な業種が集まったからこそ、時には迷ったり、意見をまとめるのが難しかったりすることもあります。それでも、「あえて調和のない会議」から生まれる予想外のアイデアこそが、まちづくりの醍醐味。答えを急がず、フラットに語り合うことで見えてくる新たな可能性について伺いました。

挑戦したいことや実現したいことをまとめていきます

──あらゆる角度から意見が出てくるからこそ、どう答えをまとめていくかという難しさもあると思いますが、いかがですか?

Kiki 確かに、どう関わっていこうかという課題はありますね。ただ、年内はあと7回(取材時点)交流会があるので、一回一回を大切に進んでいけたらと思います。参加者の幅が広がることで、確実に新しい何かが起きると信じています。

杉下さん 個人的には、プロジェクトが始まる前に「あまぬし=あの人たち」という固定したイメージにならないほうがいいなと少し心配もしていましたが、今はもう心配していません。

みなさん最初は「よく分からない」と戸惑いながら参加されることもあるのですが(笑)、私としてはその「手探りな状態」からスタートすることに、すごく意味があるなと確信しています。それがARKadeらしさだと思いますし、新しいことに挑戦して大変な思いをするほど、最終的にはそれがおもしろく変わっていくと思うんです。

井上さん 最初から「これをしよう」とガチガチに決めているわけではありません。答えをまだ持っていなくても、「まずは気軽に来ていいんだよ」と、みなさんを優しく迎え入れるスタンスを何よりも大切にしています。

Will 「あなたの村を一言で説明してください」と言われても簡単にはできないように、まちやコミュニティもそれくらいの「複雑さ」があったほうが絶対におもしろくなります。無理に言葉にしなくていい。「一緒に体験してもらえば分かる」くらいがちょうどいいんです。長い期間をかけてつくっていくし、毎年変化していきますから。……でも、あえて一言で表すなら「とにかくおもしろい場所」ですね!

思い描いていることを少しずつ言葉にしていきます
オープンな場で自分の声を届けられる環境です

まずは、人とまちをつなぐ「Knot(結び目)」をつくる一年に

ARKadeには、尼崎信用金庫・尼崎商工会議所・(一財)近畿高エネルギー加工技術研究所・(公財)尼崎地域産業活性化機構(事務局)・尼崎市が連携した「オープンイノベーションコア尼崎運営協議会(以降:OIC)」という運営団体があり、企業や起業家、大学、クリエイターの支援を行なっています。私たちまちづくり事業は、その支援人材の育成などを通じてサポートを行なっています。

Willが講師となり、支援人材の研修を行なっています

──OICは、ARKadeのコンセプトでもある「Knot(結び目)」を体現する存在ですね。このキーワードには、どのような想いが込められているのでしょうか?

Will 尼崎の「人と人」「ものづくりと人」「まちとクリエイター」などをつなぎ、新たな縁や絆づくりのプロジェクトにするという意味合いです。「最初の10人でも革命を起こせる」「もう一度つなぎ目を作り、小さな波から新しい革命を起こすまちにしよう」という願いを込めました。

Kiki その「Knot」の想いを残すため、アーケードの「C」の綴りを変え、ARKadeの「K」は大文字になっています。「Amagasaki」「Relationship」、そして「Knot」です。尼崎のものづくりと、支援する人、クリエイター、コミュニティ、そして「まち」をつなぐ、「結び目をつくる」という意味や、船の速度を表す「ノット(今ここから加速していく)」という意味も持たせています。

井上さん この「Knot」のコンセプトを聞いたとき、本当に細かく設計されていて、入り組んで深く考えられているなと驚きました。壁面に大きく書かれた「ARKade」の文字を見たときに「A」に目がいくところも、やはり「尼崎」の施設らしさが表現されていて。みんなの想いがここに集結されているのを感じます。

後ろの壁面には「ARKade」の文字

杉下さん 本当にそうですね。友安製作所のみなさんは、とにかく「めちゃめちゃ真面目」でびっくりしたほど(笑)。でも、その真摯な姿勢があるからこそ、空間の細部にまでコンセプトがブレずに落とし込まれているんだと思います。信頼しております!

井上さん まずはこの一年、こうした想いをもとに、しっかりと結び目をつくる期間にしていきます!

まとめ:まちの想いを掘り下げて、おもしろい場所をともにつくる

尼崎のまちに新たな結び目(Knot)を生み出し、未来の「あまぬし」たちが集い始めたARKade。今回のプロジェクトにおいて、友安製作所は施設の空間づくりという「ハード面」から、あまぬしプロジェクトをはじめとするコミュニティ運営という「ソフト面」まで、一気通貫で携わらせていただく形となりました。

ハコとしての建物が完成してから「どう運営するか」と考える施設も少なくありません。けれど私たちは、設計の段階から運営を見据えて、お客様と一緒に歩んでいきます。だからこそ、「Knot(結び目)」という大切なコンセプトを、空間の隅々にまで散りばめることができました。

工務店事業とまちづくり事業が手を取り合い、各分野のプロフェッショナルが集う友安製作所だからこそお届けできる、新しいまちづくりの形。私たちは、これからも地域の個性に寄り添い、まちの変化の起点をつくり続けていきます。