“これまでにない”コテの開発に挑んだコラボ商品の裏側。五百蔵製作所×友安製作所

鏝(こて)の老舗メーカー「五百蔵製作所」と、DIYメーカーの友安製作所が共同開発したオリジナル鏝シリーズ。
現場の職人さんからも好評を得ている同シリーズは、“これまでにない”技術やデザインを実現したアイテムたちです。

開発に2年以上を要したこのモノづくりの裏側を、五百蔵製作所の五百蔵満弘社長のインタビューをもとにお伝えしていきます。

五百蔵製作所×友安製作所のコラボシリーズ

五百蔵製作所さんとコラボしたオリジナルの鏝シリーズは全7種類
まずは、それぞれの特徴を簡単に解説していきます。

① 面引き 入隅用75×6 厚み0.2 
部屋の角など内側にくぼんだ角(入隅)を整える外丸面引鏝 。

② 面引き 出隅用75×6 厚み0.2 
柱などの出っ張った角(出隅)を整える内丸面引鏝。

③ 先丸210 厚み0.2 
フラット仕上げやトップコートの鏝塗りに適した先丸鏝 。

④ 仕上げ鏝 剣先180 厚み0.3 
仕上げや鏝模様をつけるのに適した剣先鏝。丸みのある鏝尻の形(特許)と反らし加工(実用新案)は鏝跡もつきにくいので、フラット仕上げにも最適。

⑤ 鏝焼けしにくい角丸角鏝225mm 厚み0.5 
友安製作所特注の鏝焼けしにくい特殊加工の鏝。 鏝焼けを出したくない材料の仕上げの押さえや磨きにおすすめ 。

⑥ 角鏝240 厚み0.4 
広い範囲を塗るのに適した240の角鏝。 硬い材料や粗い材料を塗るのに適した0.4mm厚。

⑦ 角鏝240 厚み0.3 
広い範囲を塗るのに適した240の角鏝。反らし加工(実用新案)としなりのある背金、0.3mm厚の刃は、厚すぎず薄すぎずどんな材料にも使いやすいアイテム。

五百蔵製作所とは?

五百蔵製作所は、全国でも有数の金物の街・三木市で、100年近くの歴史を誇る「鏝(こて)」の製造メーカーです。

1927年(昭和2年)に鑿(のみ)の製造・販売業として創業。初代が早世し、一度は廃業という選択肢を取ることになりましたが、1961年に2代目が初代の意思を引き継いで再興。そのときから「鏝」の製造をスタートしました。

以来、時代と現場のニーズをくみ取りながら、製品改良を繰り返してきました。その結果、独自の技術で特許や実用新案も多数取得し、数多くの職人さんから「指名買い」されています。

「職人の声」から生まれてきた独自技術

五百蔵製作所は、さまざまな独自技術で特許や実用新案を取得しています。
その独自技術は、どうやって生み出してきたのでしょう?

「職人さんから選ばれるというよりも、開発の段階から“職人の声”を反映した商品開発をしていることがで、多くの職人さんに指名買いをしていただいています」
と語る五百蔵製作所の五百蔵社長。

同社は、一流の職人さんたちと交流し、現場の意見を聞き、丁寧にくみ取ることで、その時代その時代の現場ニーズに合ったモノづくりを行ってきました。

“これまでにない” 鏝焼けしにくい鏝を実現

友安製作所が五百蔵製作所と共同開発を行う上で一つのテーマとなったのが、「鏝焼けしにくい鏝」をつくるということ。

「鏝焼け」とは、鏝で強めに押さえることで、鏝の成分が対象物に付着して黒くくすんでしまうこと。実はこれまで日本の鏝では、この鏝焼けを解決できる鏝はありませんでした。

日本は職人さんの技術も高く、「鏝焼けするのなら、しないように注意して使う」という使い方が当たり前になっていたとも言えます。

「もともと当社のリピーターの職人さんからも、『海外製品には鏝焼けしにくいものがある。五百蔵製作所さんではつくれないのか?』というリクエストがあったんです。そこから、素材やあらゆる材料を調べたり、技術系の研究所に相談したりと、試行錯誤してなんとか鏝焼けしにくい技術を確立しました。しかし、試作品止まりで商品化には至っていない状態だったんです」と五百蔵社長。

友安製作所との出会いから誕生

柄付けは社長自ら手掛けます

今回、友安製作所が五百蔵製作所さんに「鏝焼けしにくい鏝」の共同開発を依頼したのは、本当に偶然でした。

「友安製作所さんからこの共同開発の話が来たときは、本当に驚きました。まさに自分たちが商品化したかったアイデア。さらに友安製作所さんのデザイン性が掛け合わさったことで、私たちだけで商品化した場合よりも、さらに付加価値が高まったと感じています」。

友安製作所では、以前からイタリアのブランド「CO.ME」の鏝焼けしにくいステンレス鏝「BIANKO(ビアンコ)」を取り扱っていました。

ビアンコも素晴らしい商品ではありますが、ネックは2万円近くになる価格帯。鏝の高級ブランドとも言える価格は、プロの職人さんはもちろん、手軽にDIY道具をそろえたい一般の方にも手を出しにくいものです。

そこで、専門メーカーである五百蔵製作所さんの力を借り、国内生産することによって、「手軽な価格でを鏝焼けしにくい鏝を提供できないか?」と考えたのです。

そして、2年以上の開発期間を経て誕生したのが、『鏝焼けしにくい角丸角鏝225 厚み0.5 』です。実に、ビアンコの3分の1以下の価格で提供することが可能になりました。

“これまでにない” デザインに

「このコラボシリーズでは、友安製作所さんの柔軟な発想から、今までにないデザインの鏝ができあがりました。これまでになかったからこそ、レーザー刻印や色味など、四苦八苦する点もありましたが、結果的に高い付加価値が付いた製品になりましたね」。

友安製作所のプランナーから五百蔵製作所さんにリクエストしたのは、施工道具では珍しいネイビーブルーの友安製作所オリジナルデザイン。目立つカラーは、プロの施工現場でも「他の鏝と混ざらないから、失くすことがなくて便利」と職人さんにも好評です。

実際に職人の声を反映させて

今回の鏝の開発では、友安製作所や協力会社の職人さんたちの声を大いに取り入れました。 実際に試作品を使っていただき、持った感触や作業のしやすさ、施工の仕上がりなど、さまざまな意見を聞きながら鏝づくりに反映させています。

なかには厳しい意見もありましたが、それらを改善することによって、より多くの人に使ってもらいやすい鏝シリーズが誕生しました。

コラボ商品に掛けた独自技術

企業秘密の接着技術

五百蔵製作所さんとコラボしたオリジナルシリーズの鏝は、「鏝焼けしにくい鏝」を含めて全7種類

すべての商品に共通した技術が「タフロング接着」です。
鏝の板と背金(せがね)の接着には、一般的に両面テープが使われています。手軽ではありますが、当然ながら剥がれやすいのが難点。

そこで五百蔵製作所さんでは、鏝を洗うためのシンナーやアルカリ性の薬剤につけたとしても剥がれにくい、「タフボンド接着」を独自開発し、鏝の耐久性を上げているんです。

「しなる」背金を接着するため

通常の鏝は、「しなり」が良くても全体が同じようにしなるため、逆に作業をする際に材料を平らにすることが難しくなってしまいます。

しかし、五百蔵製作所さんの鏝は、中心部から下はしならず、先に行くにしたがってしなる仕組み
安定感のある中心部から下を対象物に真っすぐ当てることでフィットしやすくなり、対象物を平らに仕上げることができるのです。
鏝波ができにくいため、特に土間など、塗り直しができない場所にも重宝されているんですよ。

この「しなり」のため、背金が通常より薄いのが特徴。その薄い背金をしっかり固定するためにタフボンド接着が開発されました

薄い背金を「手作業」で真っすぐに

背金が薄い分、負荷がかかって曲がる量が多く、真っすぐではなくなってしまいます。そのため、機械で簡単にひずみを取った後に、一つひとつ手作業で整えています。

「きりつち(※1)」で、背金に切り口を細かく多く入れることで、背金を開き、平らに近づけているんです。真っすぐになるのは、職人の長年の感覚

五百蔵製作所さんの鏝づくりは、こんなふうに手作業がほとんどなのも驚きです。

世の中にない新しい技術を

「鏝業界の中でも、特許や実用新案を多く取得している方だと思います」と語る五百蔵社長。
五百蔵製作所さんは、数多くの職人さんと直接交流し、その声を反映することで、世の中にまだない新しい技術をどんどん生み出しています。

友安製作所とのコラボ商品も、その特許や実用新案の技術を使って、DIY初心者からプロの職人まで使いやすい鏝に仕上げています。ここでは、その特許や実用新案にフォーカスして、使いやすさを追求した技術をご紹介していきます。

特許:“目に見えないほど”の丸み

ごくわずかに湾曲した鏝尻

『仕上げ鏝 剣先180 厚み0.3』は、鏝尻(こてじり)、つまり鏝のお尻(下)の部分が目視できないほどわずかに湾曲しています。
そのおかげで、材料を塗った時に鏝尻の跡が付きにくい仕組みなんです。

この形状は、五百蔵製作所さんが独自開発し、「特許 第6590286号 板の形状による特許 鏝尻の丸み」を取得したもの。同社のさまざまな鏝にも取り入れられています。

実用新案:わずかな“反らし”が要

板の周囲に特殊な加工を施しているのが、『角鏝240 厚み0.3 』『鏝焼けしにくい角丸角鏝225 厚み0.5』。
板の周囲をごくわずかに反らしてあることにより、筋が付きにくく、さらに柔らかい材料も引っ付きすぎず、材料離れが良くなっています。
こちらは、五百蔵製作所さんが『実用新案 登録第3245856号 特注周囲反らし加工』を取得している技術。同社ではこの他にも、多くの特許や実用新案を取得しています。

まとめ:手仕事で実現する使う人の想い

今回、五百蔵製作所さんの工場に足を運び、実際に鏝の製造現場を目の当たりにして感じたのは、想像以上の「手仕事」の数
研磨、溶接、ひずみ取り、塗装、柄付け、仕上げなど、ほとんどの工程で、職人さんの手仕事がなければ完成しないモノづくりを行っていました。

「手仕事が多いからこそ、職人さんの細かな要望まで実現できるんです。使ってもらうものだから、その時代の使う人に合ったモノをつくりたい。使う人が使いやすいものをつくりたいと思っています」と、五百蔵社長。
今でも柄付けは社長自らが担当し、板と柄が平行になるよう一つひとつ手間をかけて調整しています。

そして、このインタビューを通して、何度も五百蔵社長が口にしていたのが、「現場の声を聴く」ということ。それが、五百蔵製作所さんのモノづくりの軸となっています。

友安製作所のモノづくりでも、大切にしているのは職人の手仕事。
私たちの「手仕事」へのこだわりがぎゅっと詰まったこの鏝が、DIY初心者からプロの職人さんまで、多くの人の手に馴染む特別な道具になることを願っています。

五百蔵社長(右)と専務